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肝臓病の基礎知識

肝疾患のための食事療法

栄養療法が必要な肝臓疾患について!!

以前は、肝疾患に対する栄養療法として、高たんぱく質、高ビタミン食が推奨されていました。 しかし、肝疾患の原因やその機序が解明されるとともに、過剰なたんぱく質の摂取は逆に肝臓への負担をかけることがわかってきました。 最近では、肥満や糖尿病を合併している肝疾患も増加傾向にあり、 その様な症例では偏った食事療法ではなく『バランスの良い食事』を用いた栄養療法を行いましょうという考え方に変化してきました。 『バランスの良い食事』とは和食に代表される一汁三菜を基本とした食事内容や、地中海式の食生活によく使用される、 青背の魚やナッツ、オリーブ油などの良質の脂質を摂り、赤身肉や加工品をあまり摂らないようにする食事内容が推奨されています。 当センターの試みとして地中海式の食生活を取り入れた献立を調理してみる料理教室を昨年初めて実施しました。 現在、肝疾患において栄養療法が非常に重要であると考えられているのは、脂肪肝と肝硬変になります。 ここではその二つの疾患に注目して説明させていただきます。

脂肪肝

脂肪肝の原因には大きく二つあり、一つはアルコール、もう一つは生活習慣病です。 以前はアルコールが原因の脂肪肝の患者さんが多く存在しましたが、 近年は生活習慣病の一つでもある非アルコール性脂肪性肝疾患(以下NAFLD)の割合が増えてきています。 このNAFLDは現在日本人の4人に1人(約3000万人)が罹患していると言われています。 NAFLDが進展すると非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に至り、さらに進展すると肝硬変や肝細胞癌になることが知られています。 脂肪肝が軽度であれば特に症状はなく、また可逆性である(正常な肝臓に戻ることが可能)と考えられており、 初期の段階で食事の改善に取り組むことが大切になります。 脂肪肝の原因により治療法は異なりますが、生活習慣病としての脂肪肝では食事療法が重要です。 脂肪肝に対して脂肪を控えたら良いのではないかと考える方が多いですが、脂肪肝になる原因は糖質の過剰摂取であるため、 まずは摂取する糖質、総エネルギーを減らすことが大切です。 主食(ご飯やパンといった炭水化物)の量を減らすことや、間食のお菓子や砂糖の入った飲み物をやめることなど簡単にできることから始めましょう。 糖質の過剰摂取は血糖値を上げ、膵臓からインスリンを多く分泌させます。 インスリンには血糖値を下げる働きと脂肪の分解を妨げ体に脂肪を貯めやすくする働きがあります。 糖質を控えることは、インスリンを低下させることにより脂肪の分解を促進させ、脂肪肝の改善につながります。 NAFLD/NASH診療ガイドライン2020 では、食事療法や運動療法により脂肪肝の改善が期待できると掲載されています。 肥満がある方は減量することが必要となります。

肝硬変

脂肪肝→肝炎→肝硬変の経過を辿ったとしても初期では症状は特にありません。 しかし肝硬変が進行してくると腹水や肝性脳症といった様々な症状を認める状態になります。

腹水

腹水がある人は、腹水増加の原因となる水分の過剰摂取や塩分過剰摂取に気を付けましょう。 特に塩分と水分の両方を含む麺類には汁を飲まないことや頻度を減らすことが必要です。 腹水が増えると胃などの消化器を圧迫することにより食欲不振も起こりやすくなります。 一度に食べられない場合は3食に拘らず1食を分割して食べるようにするなどの工夫をしましょう。

肝性脳症

肝性脳症を認める患者では、アンモニアの原因となるたんぱく質を控えた食事を選択します。 アンモニアの代謝が肝臓で十分行われない場合、筋肉で分解されます。 肝臓とは違い、筋肉でのアンモニア分解にはアミノ酸のBCAA(分岐鎖アミノ酸:バリン、ロイシン、イソロイシン)が必要となります。 これらのアミノ酸は必須アミノ酸(身体で作ることができない)であり、肝硬変ではBCAA製剤にて補充する必要があります。 また便が貯留していると、その便を材料として腸内細菌がアンモニアを産生してしまうため、アンモニアの発生量が多くなり、 肝性脳症の原因になります。肝硬変の患者さんは便秘にならないように注意が必要であり、 事では水分の摂取をしっかりと行い食物繊維の摂取量を増やすようにしましょう。

Late Evening Snack(LES)

では肝硬変を悪化させないためにはどうしたら良いでしょうか? 肝臓には栄養を貯蔵する役割(糖をグリコーゲンとして肝臓に貯蓄する)があります。 肝硬変では肝臓の機能が低下するとともに、グリコーゲンを貯蓄する量も減少してしまいます。 夕食から翌日の朝食までの食事を摂取しない時間では、健常な人であれば肝臓からの糖の供給が認められる為、エネルギー不足にはなりません。 しかし肝硬変患者の場合、糖を肝臓に蓄える量が減少するため、翌朝までにエネルギーが不足してしまいます。 Late Evening Snackという就寝前における軽食の摂取はそのようなエネルギー不足には有用であり、特にBCAA製剤の使用が有効と言われています。 なぜならBCAAは、生体内で作り出すことのできない必須アミノ酸であり、 筋肉でのアンモニア代謝に必要であるにもかかわらず肝硬変で低下してしまうことが知られているからです。