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肝臓病の基礎知識

肝疾患で使用する薬

抗ウイルス薬

肝障害を引き起こすウイルスは様々ありますが、すべてのウイルスに対して治療薬が存在するわけではありません。 ここでは、慢性肝炎の原因になるB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに対する治療薬について紹介いたします。

● B型慢性肝炎の患者さんに使用する薬
B型肝炎ウイルス(HBV)は身体から完全排除することが出来ません。 そのため、B型慢性肝炎の治療は、これ以上HBVが増殖するのを抑え、 肝硬変や肝細胞がんになるのを予防することを目的としています。 そのB型慢性肝炎に対する治療は大きく2つに分かれ、①ウイルスの増殖を抑制するお薬(核酸アナログ製剤)、 ②宿主の免疫を賦活化させるインターフェロン(IFN)による治療のどちらかになります。 HBVに持続的に感染している場合、年齢、ライフイベント(結婚や出産など)、病期、肝硬変の程度、 肝硬変や肝がん発症の進展リスクを考慮し、HBVのウイルス量を確認した上で治療を開始します。

① ウイルスの増殖を抑制するお薬(核酸アナログ製剤)
エンテカビル(バラクルード®錠)、テノホビル ジゾプロキシル(テノゼット®錠)、テノホビル アラフェナミド(ベムリディ®錠)

インターフェロン製剤の使用が不適応の場合や肝硬変の線維化が進んでいる場合には、 長期的にウイルスの増殖を抑えることを目的として核酸アナログ製剤を使用します。 直接ウイルスに作用してHBVの増殖を抑えることにより、ウイルスを減少させ、結果的に肝炎を鎮静化させます。 肝炎を鎮静化し肝硬変や肝細胞がんの発症のリスクを抑えることは、HBV関連疾患による死亡率を抑えることにつながりますので、 慢性B型肝疾患治療ガイドラインにおいて、核酸アナログ製剤の投与が推奨されています。 また、核酸アナログ製剤による治療を中断すると高率に肝炎の再燃を来すことから、ほぼ終生にわたりお薬を服用する必要があります。 ご自身の判断で核酸アナログ製剤を中止すると、肝炎が急激に悪化する事があり、生命に関わることがあります。 絶対に核酸アナログ製剤を自己中止してはいけません。 また、薬剤耐性株(変異株)と呼ばれる核酸アナログ製剤が効かないHBVが現れることがあり、この場合はお薬を変更し治療することもあります。  エンテカビル(バラクルード®錠)は食事の影響を受けてお薬の効果が下がりますので、薬の服用前後2時間は食事を避ける必要があります。 テノホビル ジゾプロキシル(テノゼット®錠)、テノホビル アラフェナミド(ベムリディ®錠)については食事時間による内服時間の変更は必要ありません。 お薬の効果が下がり治療効果が得られにくい状態は、薬剤耐性株(変異株)が現れるきっかけになりますので、用法通りに服用しましょう。 飲み忘れなどで用法通りに服用できていないことが頻繁な場合にもお薬の効きが低下してしまいます。 継続して服用することが大切ですので飲み忘れがないよう注意しましょう。  妊娠中にHBVが認められた場合には、妊婦検診で肝機能やウイルス量をモニタリングし経過をみます。 ウイルス量が増えて抗ウイルス剤の投与が必要となった場合にはテノホビル ジゾプロキシル(テノゼット®錠)が比較的安全と考えられており選択されます。 テノホビル ジゾプロキシル(テノゼット®錠)については授乳の時の使用においても比較的安全であると報告されています。

副作用
一般的なお薬と比較して同様に副作用はありますが、IFNと比較し副作用は少ないとされています。 エンテカビル(バラクルード®錠)では、鼻咽頭炎、倦怠感、頭痛などがこのお薬の特徴的な副作用とされます。 テノホビル ジゾプロキシルでは腎機能低下や低リン血症、骨密度の低下が報告されていますので注意して投与します。

② インターフェロン(IFN)療法
ペグインターフェロンアルファ-2a(ペガシス®皮下注)

慢性肝炎の慢性肝炎を起こしている患者様に対する初回治療において、HBe抗原陽性・陰性やHBV遺伝子型(ゲノタイプ)に関わらず、 原則としてペグインターフェロン単独による治療を検討されます。 特に若年の方や挙児希望がある場合などにおいて核酸製アナログ製剤の長期投与を回避したい場合に選択します。 治療法としては、ペグインターフェロンα2a製剤の週1回48週間投与します。 IFN療法が奏効すればIFN投与を終了後も、ウイルスは増殖せず肝炎は鎮静化します。 しかしIFNの効果が不十分でHBe抗原が陰性化しない場合は、IFNを中止するとHBVが再度増えて肝炎が再燃する事も多く、IFN療法の奏効率は30~40%と言われています。

副作用
開始当初にインフルエンザにかかったときのような38度を超える発熱・全身倦怠感・関節痛・筋肉痛が最もよく認められます。 また、大きな副作用として間質性肺炎、うつ病になることがあります。

● C型慢性肝炎の患者さんに使用するお薬
C型肝炎ウイルス持続感染によって引き起こされる慢性肝疾患の肝硬変や肝細胞癌の発生を抑制することを目的として、HCVを体内から排除するお薬を使用します。

① 直接作用型抗ウイルス薬(DAA)
グレカプレビル・ピブレンタスビル(マヴィレット®配合錠)、レジパスビル・ソホスブビル(ハーボニー®配合錠)、 ソホスブビル・ベルパタスビル(エプクルーサ®配合錠)

現在は飲み薬のDAAによる治療が中心となり、注射のIFN治療はほとんどおこなわれなくなりました。 現在、直接型抗ウイルス薬(DAA)による抗ウイルス治療の有効性は極めて高く、初回 投与例でのウイルス排除率は95%以上となっています。 有効な薬剤はHCVゲノタイプにより異なりますので事前に判定し、肝機能や腎機能を考慮したうえで投与量とお薬を決めます。 投与期間は薬剤や肝炎・肝硬変の状態によりますが8週から12週間の服用が必要です。 お薬の効果が得られにくいことが予めわかっているゲノタイプの種類では、お薬の効果を高める目的で、 リバビリン(レベトール®カプセル)を組み合わせて服用することがあります。 また、以前使用されていたDAAの治療後に再治療が必要となった場合には、肝線維化とHCVの変異の状況を確認し、腎機能を考慮した上で治療を開始します。 ゲノタイプの変異が認められない場合は、治療が短期間であるグレカプレビル・ピブレンタスビル(マヴィレット®配合錠)を選択します。 ゲノタイプの変異がある場合にはソホスブビル・ベルパタスビル(エプクルーサ®配合錠)とリバビリン(レベトール®カプセル)を組み合わせて使用し、 肝硬変が進んでいる場合には、ソホスブビル・ベルパタスビル(エプクルーサ®配合錠)のみでの治療をお勧めしています。

副作用
IFN治療と比較すると副作用は少ないといわれており、肝機能、腎機能をあらかじめ考慮しお薬を使用しています。 ホスブビル・ベルパタスビル(エプクルーサ®配合錠)、レジパスビル・ソホスブビル(ハーボニー®配合錠)では高血圧、脳血管障害の報告があります。 ご自身の判断で服用する薬の量を変えたり、服用を辞めたりするとお薬の効果が得られなくなることがあります。 気になる症状がありましたらお申し出ください。

肝庇護療法

ウルソデオキシコール酸(ウルソ®錠)、グリチルリチン酸(強力ネオミノファーゲンシー®静注)
肝炎を鎮静化し線維化を抑えて、できる限り肝硬変への進展や肝がんの発生を抑える目的で肝庇護療法を行います。 ウイルス量は減少しません。内服薬のウルソデオキシコール酸は肝細胞の保護効果や活性酸素の除去効果があります。 また現在使用は少なくなってきていますが注射薬のグリチルリチン酸製剤では抗炎症効果による肝細胞障害を抑えることなどが主な作用となります。 いずれの薬剤も軽度の慢性の肝障害に対してはある程度有効で、長期間使用し治療することで効果が現れるとされています。

分岐鎖アミノ酸

分岐鎖アミノ酸製剤(アミノレバンEN®配合散、リーバクト®配合顆粒・配合経口ゼリーなど)

肝硬変により肝細胞が線維化や壊れることで肝機能が低下してしまうので、肝臓の役割を十分に果たせなくなります。 肝臓の役割の一つに、空腹時に備え糖分をグリコーゲンと呼ばれる身体に蓄えるための栄養成分に変換する働きがありますが、 この機能も低下してしまいます。その結果、糖分だけではエネルギーが不足し、 身体を作るための脂肪分やタンパク質がエネルギー源として使われてしまう事で、身体がやせ細ってしまいます。 肝臓には400kcal程度、8時間分のエネルギーに相当するグリコーゲンが貯蔵されているといわれます。 本来であれば夜間のエネルギーを夕食から得ますが、肝硬変患者では空腹時のエネルギーを補うグリコーゲンの貯蔵量が少ないので、 食事と食事の間隔が最も長い朝方に飢餓状態に陥ってしまいます。 肝硬変患者においてこの飢餓状態は健康な人が3日間食事をしないことと同様であるとされ、これが長く続くと栄養状態が悪化し、筋肉の減少が起こります。 筋肉には肝臓よりも多くグリコーゲンを貯蔵できる働きがあるので、「第2の肝臓」とも呼ばれています。 肝硬変の方では、いかに筋肉量を維持するかということが大変重要で、肝硬変の患者さんは健康な方の約1.2倍のタンパク質の量が必要であり、 食事にも配慮が必要です。 血液検査でタンパク質の強化が必要と判断された方には薬としてアミノ酸が処方されます。 安定したエネルギー源となりますので用法通りに服用しましょう。 特に夜間療法(late evening snack : LES)は就寝前に軽食を取る方法で、朝までに飢餓状態にならないよう必要な栄養摂取を行うものです。 就寝前の約200kcalが必要な摂取量とされています。この栄養量は食事により賄うことも可能ですが、 アミノレバンEN配合散においては効率的にタンパク質の原料であるアミノ酸を安定したエネルギー源として得ることができるため、就寝前の服用をお勧めしています。 飢餓状態が進むと、こむら返りや倦怠感が自覚症状として現れます。 就寝前の分岐鎖アミノ酸が処方された場合には継続した服用が大切です。 肝硬変が進行すると特に分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が不足します。 これらをお薬として補充することによって肝臓でのアルブミンなどのタンパク合成能が改善し、 また肝機能を保つ効果や肝機能低下による意識障害(肝性脳症)を起こりにくくする効果があります。 用法通りの服用において、肝がんの発生、病態の悪化、生活の質が改善することが報告されています。

肝細胞がんに使用する薬

① 肝動脈塞栓に使用する抗がん剤  シスプラチン(動注用アイエーコール®)、ミリプラチン(ミリプラ®動注用)、エピルビシンなど

肝動脈塞栓化学療法は、がん細胞に栄養を送る血管にカテーテルを用いて直接高濃度の抗がん剤などを投与し、その後塞栓物質を用いて血流を遮断する治療です。 従来の1~2mmの塞栓物質を使用する肝動脈化学塞栓療法(conventional TACE:cTACE)に対して、 100~500μmの微小球状塞栓物質(ビーズ)を使用したDEB(drug-eluting bead)-TACEが行われることも多くなっています。 DEB-TACEの長所は、cTACEと比較して
1. 末梢の動脈を塞栓するため正常な部位の肝臓への障害が少ない
2. 永久塞栓物質であり塞栓効果が長く続く
3. 剤溶出性ビーズを使用することで、塞栓効果に加え抗がん剤がゆっくりと放出され、長く効果が続くことが期待できるなどが挙げられます。一方で,腫瘍を完全に塞栓する効果などはcTACEが優ることもあるため患者様の状態に応じ治療法を選択します。

② 点滴治療
【免疫チェックポイント阻害薬】 
アテゾリズマブ(テセントリク®点滴静注)、デュルマルマブ(イミフィンジ®点滴静注)、トレメリムマブ (イジュド®点滴静注)
【分子標的薬(血管新生阻害薬)】
ベバシズマブ(アバスチン®点滴静注用)、ラムシルマブ(サイラムザ®点滴静注液)
からだの中では免疫細胞が、がん細胞などの異常な細胞を異物(自分以外のもの)として、攻撃、排除することで健康を保つ仕組みが備わっています。しかし、がん細胞の表面には免疫細胞にブレーキをかける物質があるために、免疫細胞に気づかれずに攻撃をすり抜けて増殖することがわかってきました。免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれるお薬を使用した免疫療法では、がん細胞の表面にある物質にお薬が結合することで、がん細胞から免疫細胞の働きにブレーキがかからないようにします。この結果、免疫細胞はがん細胞への攻撃力を取り戻し、がん細胞の増殖を抑える働きが現れるのです。 現在、免疫療法を組み合わせた治療が、肝がんの薬物療法において急速に進んでおり、肝癌診療ガイドラインにおいても第一選択薬となっています。 免疫チェックポイント阻害薬は肝臓がんだけでなく多くのがん種に対して有効であるとされ、非常に長期に効果が得られる方もおられます。
現在、ベバシズマブ(アバスチン®点滴静注用)とは、アテゾリズマブ(テセントリク®点滴静注)と併用します。 の併用または、デュルマルマブ(イミフィンジ®点滴静注)、トレメリムマブ (イジュド®点滴静注)の併用する複合免疫療法とよばれる治療が第一選択薬とされています。
複合免疫療法が行えない場合には、デュルマルマブ(イミフィンジ®点滴静注)のみの投与や内服治療(分子標的薬;後述)が選択肢となります。 ラムシルマブ(サイラムザ®点滴静注液)は第二選択以降で使用される分子標的薬の注射剤です。 複合免疫療法開始後にがんの進行がある場合には、まだ使用していない複合免疫療法または分子標的薬での治療に切り替えて経過をみていきます。

副作用
免疫療法は免疫細胞を元気にして、がん細胞を攻撃する治療法であるため、 免疫細胞が働きすぎると免疫反応による副作用(免疫関連有害事象)が起こることが知られています。 免疫関連有害事象には腸炎や肝障害、腎障害、甲状腺機能異常、下垂体・副腎などのホルモンの 異常、筋炎、関節炎、脳炎、髄膜炎など非常に多くの種類の症状があり、二つ以上の症状が起こることもあります。 ご自身の免疫が正常な組織に過剰に働くことが原因です。 特に重症な副作用であると診断に至る場合にはステロイドによる免疫を抑える治療や入院での治療が必要になることがあります。 直ちに病院に受診しましょう。免疫関連有害事象は投与後数週間から治療を終了しばらく経った時期にも現れることがあり、特定の発症時期がありません。 ご自身による判断は難しいので、治療終了後においても、症状が疑われる場合には免疫チェックポイント阻害薬で治療した医療機関でご相談ください。

③ 内服治療
【分子標的薬】
ソラフェニブ(ネクサバール®錠)、レンバチニブ(レンビマ®カプセル)、スニチニブ(スチバーガ®錠)、カボサンチニブ(カボメティクス®錠)
免疫チェックポイント阻害薬をご自身の病気に自己免疫疾患や間質性肺炎があるなどの理由で第一選択薬として使用できない時、 他の治療を行ったのちに第二選択、第三選択を使用する時に、ソラフェニブ(ネクサバール®錠)やレンバチニブ(レンビマ®カプセル)を使用します。 腫瘍が大きくなるのを抑え生存期間を長くする効果が期待できるお薬です。 ソラフェニブ(ネクサバール®錠)やレンバチニブ(レンビマ®カプセル)、デュルマルマブ(イミフィンジ®点滴静注)を使用した後にがんの進行がみられる場合には、 スニチニブ(スチバーガ®錠)、カボサンチニブ(カボメティクス®錠)を含めたこれまで使用していない種類の分子標的薬に変更し治療を進めていきます。

副作用
高血圧症や手足症候群(手や足の皮膚が障害され痛みがでる)・たんぱく尿・甲状腺機能異常などの副作用があります。 治療中には症状を主治医に伝え、内服量や休薬期間などを調整することが重要です。

*B型及びC型肝炎ウイルスの治療、肝がん治療については、医療費が高額となる治療・医薬品があり市町村・都道府県で助成制度が認められています。使用薬品ごとに新たに手続きが必要な場合がありますので、詳しくは肝疾患センターにご相談ください

*お薬の使用に関する詳細についてはかかりつけの病院の医師もしくはかかりつけ薬局でご相談ください。