炎症性腸疾患センター

ごあいさつ

内科学Ⅱ(消化器内科)
専門教授 中村志郎
専門分野:炎症性腸疾患
 
潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)は炎症性腸疾患(IBD:inflammatory bowel disease)と総称され、小腸や大腸などの下部消化管を中心に病変が認められる疾患です。未だに原因が不明のため、根治的な治療法がないことから、消化器領域の代表的な難病として知られています。IBDの患者数は、本邦において食事やライフスタイルの欧米化と伴に年々増加の一途をたどり、ごく最近の難病研究班による疫学調査では、UCは約22万人、CDは約7万人と推定され30万人時代を迎えつつあることが報告されています。その結果、1980年代には欧米の約10分の1程度とされていた本邦の有病率は約2分の1程度までに追随し、今後も増加することが予想されています。
 
IBDは基本的に、若年から中年期に好発しますが、近年の患者数の増加に伴い、特にUCでは高齢発症やより若年発症の増加傾向も報告されています。発症後は、再燃寛解(良くなったり悪くなったり)を繰り返し療養の期間も長きにわたる傾向があります。社会生活への影響も大きいため、以前から国も特定疾患の治療制度を構築し、難病対策の充実も図られてきておりました。しかしながら、昨今の患者数の急増に伴い軽症患者さんでは特定疾患の申請が承認されない場合も出てきております。この様に、難病医療費補助が減少傾向にあることからも、より適切で効率的な治療の提供や医療体制が求められています。
 
IBDの内科治療については、2000年以前、UCでは5ASA製剤とステロイド、CDでは栄養療法しかないと言っても過言ではない状況にありました。このため、病状の改善が十分出来ない場合も多く、内科治療に対し抵抗性を示す患者さんの多くは手術を余儀なくされておりました。しかし、2000年以降、バイオテクノロジーを用いて創薬された抗TNF-α抗体製剤をはじめとする新たな生物学的製剤や低分子化合物など非常に多数の治療法が登場してきております。この様に急速な内科治療の進歩の結果、既存の治療薬では十分な結果が得られなかった難治例の患者さんの多くが、ステロイド治療から離脱し、その後も長期の症状安定化や手術回避により、元気に社会復帰出来るようになって来ています。さらに、IBDの領域では、新たな作用機序の治療薬の国際共同および国内臨床試験が20以上実施されており、今後もさらなる内科治療の進歩が期待されています。本学の病院におきましても多数の臨床試験に参加しており、最先端の治療が受けていただける環境が整備されております。
 
この様に治療の進歩が著しいIBDの領域ですが、患者さんの長期にわたる病状と将来的な健康改善のためには、早期の診断、病状把握、ならびに各患者さんの社会的背景の理解と、それらにもとづくより適切な治療介入が何よりも重要になると考えられます。内科治療が非常に豊富となり、作用機序が異なる薬を、一人一人の患者さんに応じて、有効性と安全性を考慮し、的確に選択し最善の結果を得るためには、専門的な知識と経験が不可欠となることは言うまでもありません。
 
私たちの炎症性腸疾患センターは、すでに1000名以上のUC、CD患者さんに通院を頂き、腸管型ベーチェット病やその他の希な腸疾患にも対応出来る豊富なIBD診療の経験を有した専門医が毎日外来で診療を行い、地域のクリニックや病院の先生方と連携し、随時対応させていただける体制を整えております。個人的には、関西の代表的なIBD専門施設として知られる大阪市立大学や兵庫医科大学における長年の診療経験や厚生労働省主管の難病研究班において治療指針の改定プロジェクトに携わってきた実績を生かし、IBDの患者さんから頼りにされ、信頼される炎症性腸疾患センターを目指して、スタッフ一同、努力して参りたいと思っております。