認知症とは?
認知症は脳の機能が低下し、物事を記憶し判断する能力や、自分の置かれた状況を正しく理解する力が落ちることによって、それまで問題なくできていた仕事や家事や日常生活動作が徐々に行えなくなる病気です。厚生労働省の統計では認知症とその予備群を合わせると、65歳以上の4人に1人が該当するといわれます。認知症の原因として、アルツハイマー病、レビー小体型認知症といった病気が代表的です。その他にも治療法の異なる内科的な疾患や正常圧水頭症など様々な原因があります。
受診のタイミング
認知症の症状というと、一般的に「もの忘れ」という表現が用いられることが多いですが、実際には下記に示すような多彩な症状が現れます。
- 最近の新しい出来事が記憶できない
- 日時、曜日、時間の感覚がわからない
- さっき言ったことを忘れて同じことを何度も聞いてくる
- 物の置き場所がわからなくなる
- 人の名前が思い出せなくなった
- 道に迷って帰ってこられないことがあった
- 運転でよく車を擦るようになった
- 好きだったことや趣味に対して興味が薄れた
- 薬の管理ができなくなった
- 料理や買い物の段取りが悪くなってきた
- 仕事で間違いが増えてきた
- テレビや本の内容が理解できなくなってきた
- 怒りっぽくなってきた
・・・など
認知症は徐々に進行し完治は難しい病気です。しかし、早期に診断を行い、治療を開始し社会的な支援を導入することで、進行を緩やかなものにし、患者さんご本人とご家族の安定した暮らしを目指していくことができます。上記のような症状があるときは、認知症かどうか、その原因は何かをきちんと調べることがはじめの一歩として大切です。
受診後の流れ
認知症が疑われる方に適切な治療や支援を導入するためには、早期における的確な診断が大切です。まず、患者さんの症状が、加齢に伴うものなのか、認知症という病気によるものなのか判断します。そして、認知症であった場合、その原因は何であるのか調べていきます。認知症の原因として多いのはアルツハイマー病、レビー小体型認知症、脳血管性認知症ですが、その他にも様々な病気が認知症を引き起こします。これらの鑑別診断は認知症の専門知識と神経内科の専門知識の両方を合わせ持つ脳神経内科医が得意とするところです。そして、脳神経内科のもの忘れ外来では、認知症がまだ診断されていない方、アルツハイマー病を含めて原因がはっきりしない方の診断を行います。その後、どのように治療を進めていくか相談させていただきます。具体的には以下のような流れで進めていきます。
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1
問診
患者さんの症状や日常生活の様子を聴取します。ご家族さんから見た患者さんの様子や以前と比べた時の変化も非常に重要な情報となるため、ご一緒に受診して頂くことが望ましいです。
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2
診察
言葉の理解や流暢性(失語)、考えて合目的に手足を動かせるか(失行)、歩き方が遅くないか(パーキンソン様症状)など神経学的な診察を行います。
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3
検査
用紙や道具を用いて高次脳機能検査を行います。また、血液検査、脳MRIや脳血流シンチグラフィーなど状況に応じて画像検査を行います。レビー小体型認知症を疑う時は、ダットスキャンやMIBG心筋シンチグラフィーと呼ばれる画像検査を行います。
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4
検査結果と今後の方針の説明
症状が認知症に伴うものかどうか説明します。認知症であった場合、原因に応じて治療方針を提案します。継続的なお薬の処方はかかりつけ医の先生にお願いして、日常生活に寄り添った治療と専門的な評価がスムーズに連携できるように考えていきます。
アルツハイマー病に対する最新の治療
認知症の中で最も多いアルツハイマー病は、脳の中でアミロイドβというタンパク質が異常にたまることで起こります。最近、抗体製剤によってアミロイドβを脳の中から取り除く治療がアルツハイマー病の進行を抑制することが治験で示されました。これまでの認知症治療は起こっている症状に対する対症療法のみでしたが、病気の根本に作用する新しい治療法ということで大きな話題となっています(図1、図2)。この抗体製剤による新しい治療は、現在は正式な承認を待っている段階ですが、早ければ2023年のうちに日本でも使用できる可能性があります。使用可能となった場合、現在のところ以下のような注意点が知られているため、本外来でも対象となる患者さんに情報を提供していきます。
- 認知症早期の方にのみ有効性が示されている
- アルツハイマー病の方にのみ有効性が示されている
- アミロイド関連画像異常という合併症が起こり得る
1に関しては認知症が疑われる方は病早期に診断する必要があります。
2に関しては正確にアルツハイマー病と診断する必要があります。脳神経内科では脳脊髄液検査(腰のあたりより針を刺し、脳や脊髄の周りにある脳脊髄液を採取する手技)といった方法で患者さんの脳にアミロイドβが異常にたまっているかどうか調べ、正確な診断により近づくことができます。
3はアミロイドβを取り除く過程で起こり得る炎症や浮腫が脳MRIでの変化として現れる現象のことを指します。発現率は低いですが、重症化させないために定期的に脳のMRIを撮影することで慎重に経過をみること、異常があった際の適切な対応が重要になります。脳神経内科は脳MRI画像異常をきたす様々な病気の対応を日常的に行っており、アミロイド関連画像異常にも適切に対応できると考えます。
アルツハイマー病では脳の中でアミロイドβが凝集(かたまりをつくる)し、図に示すような老人斑と呼ばれる異常構造物を形成することで神経細胞を障害すると考えられています。
Blennow K, et al. Alzheimer’s disease. Lancet 2006;368:387-403より改変
レカネマブ(抗アミロイドβ抗体)で治療されている群(黄色の線)の方が、プラセボ(偽薬)群(青色の線)よりも認知症の進行が抑えられていることがわかります(ベースラインから18ヶ月におけるCDR-SBのプラセボに対する悪化抑制:27%)
Van Dyck CH, et al. Lecanemab in Early Alzheimer’s Disease. N Engl J Med 2023;388:9-21より改変
診察医師
当科は日本認知症学会認定施設です。脳神経内科専門医と認知症専門医の資格を有する荒若繁樹、中村善胤が中心となり、他の補助スタッフと合わせて毎週火曜に外来診療を行います。詳しくは病院ホームページの診療科・部門一覧から脳神経内科診療担当表をご参照ください。
受診について
認知症かどうか心配になりましたら、かかりつけ医にご相談ください。かかりつけ医から本院医療連携室にご予約していただき、診察日を事前にお取りいたします。