子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術(UAE)
放射線診断科
UAEについて
子宮筋腫は30~40代の女性の約5人に1人に見られる頻度の高い病気です。月経過多や強い月経痛、貧血、膀胱圧迫による頻尿など日常生活に支障を来たす場合は治療対象になります。今までは、ホルモンを用いた薬物療法が効かない場合は、子宮摘出術や筋腫核出術など外科的な手術が治療の中心でしたが、最近は新たな治療選択肢として子宮動脈塞栓術(Uterine artery embolization = UAE)が注目され、当院でも産婦人科・放射線診断科が協力して実施しています。
UAEは、1995年のパリ大学の報告以来、世界中で普及しています。本邦では2014年に子宮筋腫を適応症とした球状の塞栓用ビーズ(エンボスフィア®)が認可されるとともに、UAEは保険診療で行えるようになりました。UAEはインターベンショナル・ラジオロジー(IVR)と呼ばれるカテーテル治療を専門にした放射線科医によって行われます。子宮動脈に挿入したカテーテルより塞栓用ビーズを流して筋腫の血流を遮断し、筋腫の縮小や症状の改善をもたらします。
UAEの適応
すべての患者さんが対象になるわけではなく、以下を目安にUAEを行うかどうか判断します。
UAEの一般的な適応
- 子宮筋腫による月経・圧迫症状が強い場合
- ホルモン療法など薬物療法が無効の場合
- 筋腫核出術後に再発した場合
- 患者さんが子宮温存を希望する場合
UAEの効果が不確実で慎重な判断を要する場合
- 子宮頸部に発生した筋腫
- 子宮腺筋症や子宮内膜症を合併する筋腫
- 10cmを超える巨大な筋腫
UAEを行わない方がよい場合(禁忌)
- 将来、妊娠を希望する場合(理由:子宮や卵巣の機能に影響する可能性あり)
- 子宮や骨盤内に感染を合併する場合
- ヨード性造影剤やゼラチンに対するアレルギー歴がある場合
- 画像・病理診断上、悪性腫瘍との区別が難しい場合
治療前の検査
超音波や造影MRIにより、子宮筋腫のサイズ・部位・個数・血流の状態だけでなく、子宮腺筋症や卵巣腫瘍等が合併していないか確認が必要です。その他、感染のリスクになる子宮内膜炎や、子宮がんが隠れていないかも産婦人科で検査しておく必要があります。
治療の流れ
- 硬膜外麻酔を併用する場合、麻酔科医により硬膜外麻酔用チューブを背中から背骨の隙間に留置します。
- 右鼠径部に局所麻酔薬を注射後、太ももの動脈を穿刺しカテーテル(約2mm径)を挿入します。
- X線透視下にカテーテルを大動脈まで挿入し、造影剤を注入しながら骨盤全体の血管を撮影し、子宮動脈や卵巣動脈を確認します。
- 左側と右側の子宮動脈に順番にマイクロカテーテル(約1mm径)を挿入し、塞栓用ビーズ(0.5-1mm)を注入します。ビーズだけで塞栓が不足する場合は、ゼラチン粒子(1-2mm)を追加することがあります。
- 子宮動脈以外にも筋腫に血液を送る動脈(卵巣動脈など)があれば、同様にマイクロカテーテルを挿入して塞栓する場合があります。
- 処置後は、鼠径部からカテーテルを抜去し、圧迫止血の上、ガーゼ等で固定します。
- 血管造影室での処置は約2時間です。
治療後の経過
- 血管造影室から病棟に戻ってから、当日はベッド上で安静が必要です。
- 治療当日から翌日にかけて塞栓による強い下腹部痛があります。適宜、硬膜外麻酔や麻薬などの鎮痛剤により痛みを抑えます。
- 翌日以降、ご自身で歩行・食事・排泄が可能です。点滴や硬膜外麻酔チューブも抜去します。
- 2-3日間経過観察をして、体調に問題がなければ退院します。通常、治療の翌週以降は日常生活や仕事に戻れます。
- 退院後は定期的に外来通院を継続し、産婦人科による診察や超音波・MRI検査などを行い、治療効果や合併症が起きていないかをチェックします。
- 予定通り治療を行なっても、症状の再発や子宮筋腫の再増大を認めることがあります。手術を含めた追加治療については産婦人科と相談します。
UAEの成績と合併症
海外や本邦の報告では、UAE1年後の成績は、症状改善率80-90%、筋腫縮小率50-60%と比較的良好です。子宮とともに壊死・縮小した筋腫は残りますので、長期的には再増大や再治療を必要とする可能性もあります。また、合併症として、子宮感染(2.5%)、壊死した筋腫の脱落・排出(5%前後)、卵巣機能障害による月経不順や無月経(45歳以下3%未満、45歳以上20-40%)、深部静脈血栓症に伴う肺塞栓(0.2%)、感染等の合併症による子宮摘出術の必要性(1%未満)なども報告されています。
当院では、産婦人科・放射線診断科の両方の外来を受診して頂き、各担当医とよく相談の上UAEの適応を判断します。より安心してUAEを受けて頂くために、詳しくは私たちの外来受診をお勧めします。
UAEは子宮筋腫に対する治療法の一つの選択肢です。子宮筋腫に対する様々な治療法についてはこちらもご覧ください。
参考
日本IVR学会ホームページ
受診について
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